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木曜組曲

MOVIE 2017.09.04

木曜組曲

日本映画(2002)
監督:篠原哲雄
出演:鈴木京香、原田美枝子、西田尚美、富田靖子、加藤登紀子、浅丘ルリ子

食べて飲んで犯人を探す。女5人、食とミステリー。

ミステリーなのに、観終わったらお腹がすいている。そんな珍しい映画が、恩田陸原作の『木曜組曲』。薬物自殺でこの世を去った女流作家の死の謎をめぐって、5人の女たちがそれぞれの推理を語り出す、という内容だから、楽しみ方としては「犯人探しのストーリーの構造」や「女優の表現力」に着目するのがきっと正しいのでしょう。実際、密室ミステリー的な場面設定は映画というより舞台のようだし(シチュエーションもの好きとしてはたまらない!)、名女優たちの深みのある演技も、ただ画面を追って観ているだけで面白い(だって、みんな実力派ばかり!)。

でも、その物語上の張り詰めた空気を、ふっといい意味で緩めて、映画そのものに奥行きや立体感を与えてくれているのが、5人の女たちが口に運ぶ料理の映像の数々。ブロッコリーと木綿豆腐のあんかけ、白身魚のカルパッチョ、牡蠣、ポトフ、キッシュ、鯛すき、マリネ…食卓に並ぶそれらを、鈴木京香が、原田美枝子が、西田尚美が、富田靖子が、加藤登紀子が、実に美味しそうに食べていく。もちろんワインもビールも飲む。食べながら、飲みながら、謎の死を語り、食べながら、飲みながら、犯人探しをする。「女優が美味しそうにものを食べる」という肉体表現は、もうそれだけで美しく、スリリングで、かつ不思議なことに風通しがいいのです(男5人ではきっとこうはいかない。女と食欲の組み合わせが、いかに自然で本能的で美しいかを感じてしまいます)。

DVDでしか観ていないけれど、公開時に劇場で観ていたら、その後の夕飯は吉野屋では満足できなかったはず。きっと撮影する側は、料理を美味しく撮ることにずいぶんとこだわったのではないかなあ。そこに情熱を注いでいたんじゃないかなあ。そう感じさせるだけの映像美としての食の魅力が、この映画にはあるのです。それに、この劇中での「食べる」という行為は、精神的に追い込まれた女流作家の心理状態を表現していたり、物語を収束させる上での伏線にもなっていたりして、なかなかに、色んな意味で味わい深い。ちなみに、ちょこっとネタバレしちゃうと、浅丘ルリ子が、紙を食べる。むしゃむしゃと。山羊のように。怖い。