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ストロベリーショートケイクス

MOVIE 2017.09.19

ストロベリーショートケイクス

日本映画(2006)
監督:矢崎仁司
出演:池脇千鶴、中越典子、中村優子、岩瀬塔子、安藤政信、加瀬亮

恋はきれいじゃないし、男はちっともいいやつじゃない。

恋愛映画のつもりで久しぶりにDVDを借りて観なおしたら、むしろヒューマンドラマだった「ストロベリーショートケイクス」。東京の都心で生きる4人の女性たちの群像劇です。大失恋ののち、恋の訪れを待ちながらデリヘルの受付バイトをやっているフリーター里子、その店で働きながら学生時代の男友達に片想いをし続けるデリヘル嬢の秋代、恋に一途なOLのちひろ、過食症のイラストレーター塔子、それぞれの(おそらく多くの解説文で「リアル」と表現されるであろう)都会暮らしの日常が、ところどころ交差しながら、ゆるいテンポで描かれています。

恋がいくつも描かれているのに、あれれ、恋愛映画っぽさをあまり感じないのはなんでだろう、と少し考えてみるに、それはきっと、描かれた恋がちっともきれいじゃないから。けっこう性描写が多く、恋の数だけ男の登場人物も当然いるけれど(しかも加瀬亮とか安藤政信とか出てる)、この映画の場合、男と女が肌を重ねるどの場面にも「愛し合う」という言葉はあてはまらないし、男はちっともいい奴らじゃない。ここで描かれている都会の恋愛は、ビルとビルの合間に小さな角張った空を見上げるような、ほんのひとときの、疲れた心の隙間を埋めるだけの時間なのかも。なんて、東京に暮らしていたときのことをちょっと思い出しながら。

事件も事故も起きないので、人によっては単調でつまらない映画と思うかもしれません。でも、フリーターの里子を演じる主演の池脇千鶴はいうにおよばず、田舎出身のOLをうざったく演じる中越典子も、仕事の顔とプライベートの顔をメガネひとつで見事に演じ分けてる中村優子も、それぞれの偏った人物像をその役の根っこのあたりを握りしめるように泥臭く、でも素敵に軽やかに演じていて、とても味わい深いなあと感じます。ときどきハッとするような台詞もあって。男でも共感できるところもあって。00年代の東京ってこんな感じ、と思って。

ちなみにイラストレーターを演じている役者さん、やけに絵の描き方が熟れていて仕草が自然だと思ったら、なんと原作の魚喃キリコさんご本人。新潟のご出身です。原作者がこんなに溶け込んで演技している作品なんて他に知りません。

人生、思うようにはいかなくて、時間は勝手に前に進む。それは当たり前のことだけれど、それを案外やり過ごせてしまうのが男で、どうしたって敏感に身体が反応してしまうのが女。そんなことも思う佳作でした。