1. ホーム
  2. アート
  3. シネマ気分

チーム・バチスタの栄光

MOVIE 2017.11.20

チーム・バチスタの栄光

日本映画(2008)
監督:中村義洋
出演:竹内結子、阿部寛、吉川晃司、佐野史郎、田中直樹

個性際立つ、テンポのよい軽妙洒脱な医療ミステリー

現役医師である海堂尊原作の小説を映画化した医療ミステリーで、テーマは心臓バチスタ手術。大学病院で続けざまに手術に失敗し患者が死亡する症例が相次ぎ、その理由を探るべくある神経内科医が抜擢され、そこに厚労省のお役人まで絡んで…というのがストーリーの大筋。これだけ読めば、生死を扱うさぞ重たいテーマの映画だろうと思うでしょうが、とんでもない。テーマに反して、この映画の仕上がりは実に軽妙。ライト・ミステリーなんて言葉は聞いたことがないけれど、そんな単語を勝手作ってしまうくらい、不思議と爽快に観終わる医療ミステリー映画。それがこの「チーム・バチスタの栄光」です。ライトというか、ポップ・ミステリーでもいいかも。

監督の中村義洋はすごいと思いました。何がすごいって、まず原作と主人公が全然違う。“不定愁訴外来”の医師が心臓外科のオペ室へ、という舞台設定は同じでも、性別も年齢も名前も、そしてキャラクターも違う。300万部を売ったベストセラーの主人公をガラッと変えて、同名の作品の映画化として成立させるなんて、すごい。そして、観ると分かるのですが、医療ものといっても、この映画はチームものであり、そのチームにまつわるキャラクターものの映画でもあります。キャラクターの面白さを最大限に出す(安易な人物造形に流されて下手をしたらすごくベタベタな手触りのものになりかねない)ということに、いかに苦心しただろうかと思うと、いやーすごい、その演出力、バランス感覚に脱帽なのです。

さて、そのキャラクターの特に重要な部分を見事に演じきったのが、竹内結子と阿部寛。上手いです。ちなみに、この作品の成功の理由のひとつは、竹内結子演じる主人公のキャラクターの感覚が、「一般女性」とほぼ同一であること。医療ものの主人公医師といえば、たいてい「正義感にあふれる青年医師」という感じで、どちらかというと憧れ系のキャラクターですが、こちらは違う。人工心肺のこともよく知らない「外科のど素人」という感じで、観客と同じ目線での役回りをしているから、とても感情移入しやすいのです。そして、この庶民派の主人公が、ちょっと気持ち悪いくらい頭が切れて変人っぽい厚労省の役人・阿部寛と組むこのタッグがまた愉快。まともな人と変な人。思えば、この映画はバディものコメディでもあるわけです。

とここまで書いて思ったのは、謎解きミステリーであり、犯人探しのサスペンスであり、チーム団結ものであり、キャラクターものであり、バディものであり…なんか、この映画には面白さの条件がたくさん揃っているということ。エンターテイメントのお手本みたい。あ、言っておきますが、かろうじて恋愛の要素だけは皆無です。ミステリーの本筋を追って緊張しながら楽しむのもよし、登場人物の個性を楽しむもよし、竹内結子と阿部寛のコンビネーションの妙を味わうもよし。そんな「チーム・バチスタの栄光」。ついでに付け加えるなら、佐藤直紀による本編中の映画音楽もテンポがよくて実に軽妙洒脱。台詞の掛け合いもいいから、ときどき仕事中にDVDを流しても邪魔になりません。テンションと引きの感覚がすごくよくて、サラッとした手触りの医療ミステリー。大好きな映画です。続編もDVD持ってます。ドラマは見たことありません。