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ビッグ・フィッシュ

MOVIE 2018.6.25

ビッグ・フィッシュ

Big Fish|アメリカ映画(2003年)
監督:ティム・バートン
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー

空想と現実で描く美しく豊かなフィッシュ・ストーリー

ファンタジー映画が苦手です。映画はそもそも作り話の大嘘であって、その枠組みの中で本当(真実)らしいことをいかに楽しめるかが味わいであり面白さなのに、そこで「なんでもあり」みたいなことをしたら、なんだか作品を見ている自分がしらけてしまう。子どものときから、夢の国のお話とか、不思議なお話、みたいなのはあまり好きではありませんでした。それは例えば、登場人物が突然歌って踊りだすミュージカルに近いもので、やはりミュージカルも苦手なのでした。

でも最近気づいたのは、なんだかこのジャンル苦手だな…、と思っていたのは、ファンタジーをただの「空想もの」として作品化する多くの作り手(配給側)の意識がどうもしっくりこないだけなのかも、ということです。不思議な国に迷い込んで冒険をして、親子や仲間の絆を確かめて現実に帰ってくる、みたいなありふれたパターンですべてが解決、よかったよかった、みたいなストーリーの無意味さが苦手なのだと。逆に、本当のことを伝えるために、考え抜かれて最も適切な手法、物語の本質的なものを描く手段として選ばれた「ファンタジー」は、全然きらいじゃないのだと。それは変な例えだと、「芸能人の不倫」は、本来は「下世話で下劣で本当かどうかわからないけど、面白くて色っぽくて刺激的な、愉快な三面記事的なもの」なのに、「こんな悪事が発覚!不倫は悪であって社会的に抹殺しなければならない!いろいろ自粛せよ」みたいなパターンで報道されたらちっとも面白くない、というのに似ています(あんまりわかってもらえないかもしれませんが)。

というわけでティム・バートンの「ビッグ・フィッシュ」です。ひとりの青年ウィル・ブルームは、父親のエドワード・ブルームがあまりにも奇想天外なほら話ばかりするので、そんな父に辟易してすっかり疎遠に。あるとき、その父が病に倒れたとの連絡があり、病床に駆けつけると、父は相変わらずでたらめな話ばかりをしはじめます。真実を知りたいウィルと、人生の終わりが見えたエドワード。ふたりの和解をテーマに、この映画は、死に向かって老いていく父親の現実と彼の若き日のファンタージが交互に描かれていく、そんな物語です。なにはともあれラストが素晴らしいです。劇場で観てその勢いでパンフレットを購入してしまう数少ない映画のひとつ。そのなかで、ティム・バートンはこう言っています。「僕は現実のなかにファンタジーがあって、ファンタジーのなかに現実があると考えている。みんなはそのふたつを別々にしているようだけど、そうじゃないんだ」。

父と息子の和解。ティム・バートンにとってそのテーマを描く最も適した手法が、ファンタジーでした。ちなみに若き日の父を演じる主人公はユアン・マクレガー。そして現実の父を演じるのはアルバート・フィーニー。完璧なキャスティングだと思います。15年前に買ったパンフレットのなかで堀江敏幸が『「事実」は「嘘」をまじえることでより豊かになるという、ひとまわり大きな真実を理解していく』と書いていますが、この映画を観て思ったのは、まさにそのことでした。