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きょうのできごと

MOVIE 2018.7.23

きょうのできごと

日本映画(2003年)
監督:行定勲
出演:田中麗奈、妻夫木聡、伊藤歩、柏原収史、池脇千鶴

世界と自分。大学生の日常と、世の中のニュース。

「きょうの出来事」という夜のニュース番組がかつてありました。日本テレビ系列で2006年まで放送されていて、その日のニュースの最終版を報道する番組でした。夜更けにテレビの電源ボタンを押せば、日本中いや世界中の様々なトピックスが目に飛び込んできました。カメラが立ち入ることのできる場所ならどこでも、テレビ局の制作スタッフがニュース素材として選んだ映像ならなんでも。僕らはみんなそうやって世界を知っていきました。世界を知るというのはそういうことで、世界は画像や映像として存在するものでした。

で、「きょうのできごと」です。柴崎友香の小説が原作となった日本映画。監督は「GO」や「世界の中心で、愛をさけぶ」「北の零年」などで有名な行定勲(個人的には「パレード」が好き)です。青春群像劇、といえばカッコよくてキラキラした感じだけれど、この映画はちょっと違います。だいぶ地味。京都の大学院に進む男の子の引越祝いに集まった、大学生たちの一夜を淡々と描いた物語。酔っ払ってくだをまくヤツ、好きな子が振り向いてくれなくて勝手に傷ついているヤツ、何も考えずに楽しんでるヤツ。彼ら彼女らの人間模様は、物語というよりも情景描写という感じで進行していきます。よその大学の学生の飲み会を覗いている、そんな感覚かもしれません。そして彼らにとっての「世界」とは、結局、その、酔っ払った頭で考えられる範囲のこと、気軽にしゃべれる仲間たちのこと、車や自転車や徒歩で行ける場所のこと、なのです。

この映画では、大学生たちの一夜を描きながら、ふたつの雑居ビルの間に挟まれた情けない男のニュース映像と、浜に打ち上げられたクジラのニュース映像が同時に進行していきます。それはまさに、「きょうのできごと」と「きょうの出来事」の対比となって、観る側の「世界」というものの距離感をあやふやにします。ごくごく身近な、愛情のようなもの、友情らしきもの、ちょっとした好奇心、若者ならではの純粋さ。うまくとらえきれない世界は、きょうという一日を終えて、また明日という新しい一日が、進むように、あるいはループするように、つながっていく。だけど、別の場所ではまったく異なる時間軸と感情と出来事が渦巻いている。

2001年に同時多発テロがあって、2003年にこの映画が公開されたことにはやはり意味があって、「世界と自分」を若者がどのようにとらえ、感じているか、その答えのひとつとしても、鑑賞できるのではないかと思います。近い「世界」と遠い「世界」のつなぎ役に、知的好奇心をもつ(はずの)若者として「普通の大学生」を設定したのは、大正解だと思います。配役もいい感じ。好きな映画の一本です。ついでに言うと、この映画と、もう一本、若者たちのルームシェアを描いた2010年公開の「パレード」(吉田修一原作)は、セットで見ると、より面白いと思います。