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悪魔の手毬唄

MOVIE 2018.11.19

悪魔の手毬唄

日本映画(1977年)
監督:市川崑
出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎

秋の夜にしっとり鑑賞してほしい和風ミステリー

日本を代表する名探偵といえば、明智小五郎と金田一耕助がまず浮かびます。東京を舞台に活躍するシティーボーイの明智小五郎に比べ、金田一耕助は小さな村などで土着的な事件を解く冴えない風体の探偵です。そんな金田一耕助を映画化した中でも人気なのが、東宝映画制作・石坂浩二主演×市川崑監督のシリーズ作品。「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」の5作品があり、スクリーンに初めて原作通りの金田一耕助を登場させたシリーズでもあります。今回は第2作目「悪魔の手毬唄」を紹介します。舞台は岡山県にある架空の村「鬼首村(おにこうべむら)」。ぶどうの栽培が盛んなこの村では、古くから伝わる手毬唄の歌詞通りに、同じ年の娘が殺されていく連続殺人事件が起こります。事件の影には死んだはずの謎の老婆が見え隠れし、金田一耕助と岡山県警の磯川警部がこの事件に挑むという物語。泥臭い作品になりそうなところですが、「新世紀エヴァンゲリオン」にも影響を与えていると思われる黒地に白い太明朝体のフォントで表現されたタイポグラフィー的クレジット画面、独特の間や早口などで印象づけるセリフ、テンポにこだわった編集など、市川崑監督の独特な映像美やリズム感によって、スタイリッシュなミステリー作品に仕上がっています。また、シリーズとしての楽しみが多いのも特徴。おなじみの役者が登場し、毎回違う役を演じていたり(特にキーマンの大滝秀治、草笛光子、三木のり平、白石加代子)、おなじみのシーンがあったりしますので、シリーズを通して順番に見ることをお勧めします。「悪魔の手毬唄」は、シリーズの中で最も哀愁の感じられる作品です。様々な愛憎が交差していて、それが事件の動機にも繋がっていくのですが、そんな中でも哀愁を帯びているのが、磯川警部(若山富三郎)の片思いです。旅館の女将(岸恵子)に不器用なアプローチをするものの、全く相手にされてない中年やもめ男の哀愁が見事に演じられてました。片思いの人が見ると他人事と思えない気持ちになるのでは。私は見るたびに切なくなります。