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海街diary

MOVIE 2018.11.19

海街diary

日本映画(2015年)
監督:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず

美しい四姉妹の物語で、目と心の保養を。

恥ずかしながら是枝監督の映画を観たのは最新作『万引き家族』がはじめてで、そのあまりの出来のよさに感動して「是枝監督すごいすごいすごい、何で今までスルーしちゃってたんだろう」と思っていたら、Amazonプライムで無料だったので観ました、『海街diary』。テーマとエンターテイメントとリアリティ。それぞれがそれぞれの枠をつくってそこに固執するのが現代の映画監督の「らしさ」や「作家性」の特徴であるような気がしばらくずっとしていますが、是枝監督はそのすべてをひとつの枠の中で描ける、とても希有な監督だと思います。

吉田秋生の原作マンガを映画化したこの映画は、鎌倉で一緒に暮らす三姉妹のもとに、父の死をきっかけに、遠くで暮らしていた腹違いの妹がやってくるというお話。この四人の姉妹を、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが演じています。そしてその周囲を固めるのが、大竹しのぶ、樹木希林、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー…。さらに言えば撮影は写真家の瀧本幹也でアートディレクションには森本千絵。で、監督が是枝裕和。こんなに安心して心穏やかに観られる映画もなかなかありません。映像は綺麗だし、雰囲気もいいし、テンポも絶妙だし、何より描くものが明瞭ですーっと頭の中に入ってきます。

ところで姉妹ものといえば『阿修羅のごとく』が好きです。姉妹のキャラクターの性格がくっきりきれいに描き分けられていて、その組み合わせでドラマの魅力が何倍にもなる感じが、さすが向田邦子、というところなのですが、この『海街diary』もまた、四姉妹が負けず劣らずとても魅力的。それまでどちらかというと一本調子な印象があった綾瀬はるかが、この映画ではとても立体的で緩急のあるふくよかな女優に見えました。長澤まさみは単純に美しいものとしてしか認識していなかったけれど、そこに「等身大」という親しみ深さが肉付けされた気がします。夏帆のキャラクターが個人的には一番好きで、ぬけぬけしながらなんかちっぽけで寂しい、どこにでもいるような女の子の友達、って感じ。そして広瀬すず。これだけの俳優陣に囲まれていながら存在感が群を抜いています。瞳に宿る光がきらきらと輝いています。「四人の女優を観ているだけで目の保養になった」という感想をもつ人も多いと思いますが、配役と演出と映像がどれも素晴らしいからこその「保養」にほかなりません。日本家屋と四季を舞台にしていることで、『細雪』的な姉妹ものの感触もあり。

物語の全体像は、四人の姉妹がそれぞれの居場所、生きる場所を探す物語。綾瀬はるか演じる長女には、家族の中での「母親」としての立ち位置と自分の幸せというものを上手に扱いきれない葛藤が。次女には、女としての幸せを追いかけながらも追いつけない苦しさと、長女に対する複雑な思いが。そして「父親」の記憶が姉妹のなかの誰よりも希薄で、そのことが心の拠り所の欠落を感じさせる三女。広瀬すず演じる腹違いの末っ子は、「ここにいること」の存在そのものを許されているのかわからないという哀しみが。

ちなみに、この映画の広瀬すずは「台本なし」で撮影に取り組み、リハのときに是枝監督が台詞を読み上げ、その場で演技を作っていくというやり方だったそうです。なんだかいろいろすごいです。