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MOVIE 2019.2.25

夢みるように眠りたい

日本映画(1986年)
監督:林海象
出演:佐野史郎、佳村萌、深水藤子

映画の原点を見つめ直した異色作

映画好きな友人の影響で映画青年を気取っていた高校生時代。新潟市民映画館「シネウインド」で感動のあまり、上映終了後にしばらく席を立てなかった作品『夢みるように眠りたい』。舞台は昭和30年代の浅草。私立探偵・魚塚は月島桜という富豪の老女より、誘拐された娘・桔梗の捜索を依頼されます。仕掛けられた謎を次々と解きつつ、桔梗の影を追って浅草の町を探し回る魚塚は、やがて自分の探していたものが月島桜の娘ではなかったことに気づく…。江戸川乱歩に代表される昭和初期の探偵小説のようなあらすじです。映像は時代のムードに合わせたのかもしれませんが、「映画」というものの原点を見つめ直そうとするかのようにカラーではなく、あえてモノクロームで描かれています。しかも半サイレントとなり、効果音や音楽以外の音声はなく、台詞はすべて字幕で表現。スクリーンに映し出される色や音のない、純粋に光と影のみで構成された世界。その世界に映し出される、ミゼット、仁丹塔、電気館、街角の手品師など、昭和初期の浅草の風景。懐かしくも怪しい、そんな風景の中で物語は進み、当時の風物が大好きな私にとっては夢のような世界が展開します。タイトルになっている「夢みるように眠りたい」の意味は、作品の終盤でわかってきますが、「夢」という言葉は「映画」のことを指しているのではないでしょうか。日本映画がピークを迎えていた黄金時代、人々にとって映画はまさに「夢」だったと思います。そして、この映画の主人公・魚塚が探していたのも「映画」という名の「夢」だったのかもしれません。映像技術が目を見張るほど進歩した現代映画ですが、そんな今こそ「映画」というものの原点に戻ってみるのも大切なのではないかと思います。高校生時代は集中力があった私ですが、今鑑賞するとあまりの静かさに自分が「夢みるように」眠ってしまう気がします(汗)。