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MOVIE 2019.3.4

スモーク

SMOKE|アメリカ、日本、ドイツ合作映画(1995年)
監督:ウェイン・ワン
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ハロルド・ペリノー・ジュニア

新聞の短編小説からスクリーンの世界へ

この地球にはさまざまな国があり、その中にはたくさんの街がある。もっと近づいて見てみると人間関係があり、家庭があったりと、大きな世界の中に無数の小さな世界が溢れている。今回紹介するこの映画は、その「小さな世界」だけを切り取った物語。舞台はブルックリン。街角にある小さな煙草屋を中心に繰り広げられる人間関係だ。特別凄いことが起きるわけではないが、人生というものを教えてくれる気がする。そもそもこの映画のはじまりはニューヨーク・タイムズ紙に掲載されていた短編小説。それに感動をしたウェイン・ワン監督が映画化を熱望して企画がはじまった。小さな煙草屋を営むオーギー・レンは、10年以上もの間、毎日同じ時刻、同じ場所で愛用のカメラ(キャノン AE-1)で撮影をしていた。そのカメラが生んだ、ちょっとした出来事やそれにまつわるエピソードが本作の魅力である。至る所に付箋が張られ、そのひとつひとつを回収し「あっ!こことココが繋がるのね!」といったささやかな感動で物語が進んでいくのは、きっと小さな世界だからこそ。それがこの映画の世界観。なかには、意味深なのに何も明かされずそのまま終わっていくものもある。でもそれって人生のなかでは日常。人生には、意味のないものやことがたくさんある。ただ映画では謎に思えるだけ。シーンは余白をうまく使いながら描かれ、音楽も絶妙で本当に素晴らしい。それとネタバレにはなるが、一番好きなシーンがエンディング。歌とともにモノクロ画面を流れるクレジット。回想から、オーギーが使っているカメラがなんだったのかが分かるラストのラストは、「この付箋は回収するのね」と思わせてくれる。あまりストーリーの中身を書かなかったのはストーリーを知ってから観るのではなく、ちょっと疲れた時に観てもらいたいから。アクション映画みたいな爽快感はないけれども、不思議な気持ちと満足感がきっと心を満たしてくれる。